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千葉地方裁判所 昭和51年(行ウ)13号 判決 1977年12月21日

原告 千脇一

被告 千葉地方法務局登記官

訴訟代理人 川又忠信 八木俊己 ほか二名

主文

一  本件訴を却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四三年一二月二六日別紙物件目録記載の土地についてなした土地地積更正登記はこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  本案前の答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、訴外中沢幸造及び同清水時弥の昭和四三年一二月二四日付土地地積更正登記申請に基づき、同月二六日、別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)について、その地積表示を四二八六平方メートルから九二九〇平方メートルへと更正する土地地積更正登記(以下本件更正登記という)を行なつた。

2  しかしながら、被告の行なつた本件更正登記処分には、以下に述べるような違法があり、取り消さるべきである。即ち、本件更正登記後の本件土地の地積には、本件土地の南側に存在する原告所有にかかる千葉県干葉市平山町七四番一山林三〇七八平方メートルの内七九七・五三三平方メートル及び同所同番二山林一四一八平方メートルの内一三八三・九二八七平方メートル(以下右二筆の土地を原告所有地という)などが含まれる結果となつた。

3  よつて、被告の行なつた本件更正登記により、原告は原告所有地につき重大な権利侵害を受けているので、違法な本件更正登記の取り消しを求める。

二  本案前の抗弁

1  本件更正登記は本件土地につきなされたものであるが、原告は本件土地につき所有権その他何等の権利を有せず、単に隣接地である前記原告所有地の所有権を有するにすぎないところ、地積更正登記は、登記簿上の地積を実測面積と合致させるために地積の表示を訂正するものにすぎず、これによつて隣接地の地積にいささかの増減を来すものではないので、本件更正登記によつては原告所有地の所有権は何らの権利侵害をも受けていない。

2  よつて、原告は本件土地につきなされた本件更正登記の取り消しを求める法律上の利益を有しない。

第三証拠<省略>

理由

一、<証拠省略>によれば、被告は、昭和四三年一二月二六日、本件土地についてその地積表示を四二八六平方メートルから九二九〇平方メートルへと更正する本件更正登記(原因錯誤)を行なつたこと、本件土地は訴外ジヤパンライン株式会社の所有であること、及び原告は本件土地につき所有権その他何らの権利も有しないことが認められる。

二、原告の本件訴えの適法性について

地積更正登記とは、既に登記されている土地について、その登記されている地積がその登記の当時から誤つていたため、登記と実体関係との間に原始的不符合がある場合に、これを訂正してその登記を客観的存在である正しい実体関係に合致させるためになされる登記であり、あくまでも、客観的な実体関係を前提として、これを登記簿上の記載に反映させるにすぎないものであるから、地積更正登記自体により当該土地の権利関係や客観的範囲・区画等を変更したり確定したりするものではなく、また隣接地との境界に影響を及ぼしたりこれを変更したりするものでもない。

もつとも、地積更正登記の際、登記官が前提となる実体関係を誤つて認識した結果、客観的な実体関係と相違する更正登記がなされることが想定され、かかる場合には、不動産登記簿の公簿として有する証明力を考慮すると、争訟等において当該の土地に隣接する土地の所有者等の第三者に少なからぬ影響を及ぼすことが容易に予想されるところである。しかしながら、公簿としての証明力といつても、それは一応のものに過ぎず、反証により覆すことができることは、前述した地積更正登記の性質からして全く疑問のないところである。従つて、地積更正登記によつて当該土地の所有者及び隣接土地の所有者等がうける利益、不利益は事実上のものに過ぎないと解するのが相当である。なお、右のように過誤のある更正登記がなされたとしても、これにより隣接する土地につき、例えば減歩された地積更正登記が当然になされるわけのものではないから、その過誤はあくまでも当該土地に限られたものといえるので、一旦そのような登記がなされた以上、その過誤の是正は登記官の職権による訂正のほかは、当該土地の所有名義人の意思に委ねられるべきものであつて、これが期待できないからといつて、当該土地の所有名義人に既判力を及ぼしえず、また、前提たる実体関係の争いに何等の確定力も有しない本訴のき抗告訴訟を許容することは、全く無意味なものというほかなく、むしろ、必要があれば、当該土地の所有者を相手方とする実体関係の確定を求める訴訟によるべきものである。

以上述べてきたところによれば、地積更正登記は当該土地に隣接する土地の所有者等の第三者の権利義務に直接影響を及ぼす効力を有しないものと解するのが相当であつて、抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しないというべきであるのみならず、本件土地自体につき何らの権利も有しない原告は本件更正登記の取り消しを求める法律上の利益を有しないものといわなければならない。従つて、原告の本件訴は、その余の点について判断するまでもなく不適法として却下を免れない。

三、結論

よつて、本訴は、不適法なものとしてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 輪湖公寛 東原清彦 井上繁規)

別紙物件目録<省略>

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